
2019年5月期の決算情報(業務及び財産に関する状況説明)がトーマツのホームページにて開示されています。
さてさて、今年はどんな感じなんでしょうか。
BIG4ではトップバッターやな
ネタバレすると、かなり利益操作をしている印象です。もちろん、合法的に。
Contents
要約PL 3期比較
まずは、要約PLから見ていきましょう。
なお、2017年は10月から5月までの8カ月決算なので参考程度です。
ざっくりいうと、
「頑張って売上増やしたけど、デロイトの上納金負担が大きくて営業利益はでなかったよ。
引っ越しも重なって、危うく最終赤字になりそうだったけど、子会社をうまく利用して黒字にしたよ。」
という感じでしょうか。
営業利益
売上高は2期連続の1,000億円越えです。
クライアント数も監査は少し絞っていますが、GCついているところを切ったりしているような印象です。非監査については順調に伸ばしていますね。
一方で、営業利益は赤字すれすれの水準まで落ち込んでいます。
売上高が約40億円増加の一方で、人件費+10億、情報システム+12億、その他で+25億と費用が増加し、減益となっています。
面白いのは、この情報システムとその他の増加理由です。
詳細を見ていくとこの増加要因はシステム費用であるシステム関連分担金(IT業務分担金)が+17億円、その他費用であるグループ分担金が+25億円。このふたつで業務費用の増加額47億円の90%を占めているわけです。
このふたつの業務費用については、以下のような(注)がついています。
従来、業務基幹システム開発運用に係る費用の負担等を主な目的としてシステム関連分担金がグループ内で課されていたが、業務システムへのセキュリティ対策等、従来グループ分担金に含まれていた費用も含めてIT業務分担金として課されることとなった。
デロイトへの上納金やろうけど、増収した以上に上納金増やされるなんてたまらんな。
向こう3年間にわたりAP地域全体で総額321百万米ドル規模の戦略投資を実行する計画です。
このアジアパシフィック関係で上納金が増えていると思われます。そして、まだまだ投資するつもりなら、来年も費用負担は重そうです。
去年までは日本の統括会社であるデロイトトーマツ合同会社が、それなりに発言力もありフィーも押さえてくれていましたが、アジア地域に飲み込まれて、金を吸い上げられ、パワーを失いつつあると見るべきなのでしょうか?
調書の英語化が進み、退職者が増えているという話も聞いたような、聞いてないような。。。
【参考:費用/売上比率】
これを見ると、人件費を削減(▲1.8%)し、上納金(IT+1%、その他+1.8%)を増やした構図に見えますね。
人件費は利益操作が行われている疑惑があります。後ほど。
当期純利益
そんな感じで営業減益で赤字すれすれでしたが、最終利益は27億円と前期比較で大幅増益です。
営業利益以下、いろいろな数字が派手に出ています。印象的なのは受取配当金17億円、移転関連費用の11億円、関係会社株式売却益46億円、構造改革費用15億円ですね。
受取配当金は、前期の1億円から+16億と大幅増加。邪推すると、全然利益出てないし、子会社にプールしていた利益を吸い上げて利益操作しに行った印象です。上手いですね。
移転関連費用は、丸の内二重橋ビルへのお引越し費用。新日本も去年10億円の構造改革費用なる引っ越し費用を計上しています。だいたい、東京事務所規模だと10億円ぐらいかかるのですね。
関係会社株式は、トーマツイノベーション㈱の売却益。現在は㈱ラーニングエージェンシーと名称を変更しています。1月31日付で売却しているようです。
トーマツ イノベーションに関するお知らせ
この売却益がなければ最終赤字だったので、いろいろ理由をつけていますがなんとか売り抜けたいところだったでしょう。
他にも何か隠し玉あるんちゃうの??
そして、構造改革費用。こんなことが書かれています。
今後のIT投資の増加を見越した人員構造の改革のための社員の早期退職に関連する退職割増年金等に係る費用である。
「社員」ですし、「年金」と記載されているのでパートナーのリストラですかね。ただ、人員を見ていてもパートナーが減った印象はないので、若手を積極的に登用して、働かないおじさんをクビにしたのかもしれませんね。
なお、パートナー数は527名から530名に増加しています。
その他
クライアント数
続いては、クライアント数関係の情報を見ていきます。
先述の通り、2017年は8カ月決算なので、ご留意。
先述したとおり、監査は減りましたが、非監査をうまく増加させています。
監査の減少クライアントを少しピックアップすると、田淵電機や中村超硬といった、GCがらみで契約切ったのかなと思われるところがあります。
大手では品質管理がうるさくなっている中、リスクが高いクライアントは基本的には抱えない傾向にあるようです。中小監査法人にはクライアント増加のチャンスですが、大手が扱いきれないとして切ったクライアントを中小がどこまで毅然とした態度を示すことができるのか、実に興味深いですね。
そして、監査クライアントは減っている一方で、監査報酬は増加しています。結果的に、監査単価は改善しています。
どこも監査の工数は増加傾向にあるので、報酬も増加しているのでしょう。
このトレンドは当面続くのではないでしょうか。準大手に変更している会社も多いですが、準大手も増やし続けることはかなりのリスクです。非常勤を増やすことで対応しているようですが、金融庁は非常勤を問題視し始めているという話も耳にしました。
会計士の転職ナビを見ていても、準大手の常勤募集が増えてきているような印象です。
そんなこんなで、変更したくてもできない会社も多く、泣く泣く報酬増加を飲んでいるところも多いでしょう。
人員数
続いて、人員関係の推移を見ましょう。
目立つのは、監査補助者の激増。1年前比較で300名増加、2年前と比較すると500名増加。
一方で、会計士は前期と比較し減少。
これは、近年の異常なまでの監査形式主義(もう役所なの?レベル)に嫌気がさした会計士が辞めて、補助者をやむなく増やしているというよりも、今後のAIを見据えた体制を構築しているとみる方が妥当な気がします。(会計士が減っている理由は、嫌気がさしてという人が多いとは思いますが。)
単価の低い補助者を多く配員するのは、まったく営業利益が出ていない現状を打破するには必須でしょう。
ここまで一気に補助者を増やすと、怖い気もしますが、実務負担が減るのであれば大いに進めてほしいところです。
従業員当たりクライアント=従業員負担
次に、一人当たりのクライアント数=従業員の負担を見ていきましょう。
パートナーや、会計士あたりのクライアント数はあまり変化はありません。
一方で、補助者を増加させていることで、補助者の担当クライアントが3.3社から3社に減少しています。
これで、補助者を利用する会計士たちの負担は結構軽くなるように思います。
従業員当たり給与
さて、お楽しみ。一人当たりの人件費を見ていきましょう。
先述の通り、2017年は8カ月決算なので、ご留意。
前期比で一人当たり年収は50万円減っていますね。人員が増加しているのに報酬は下がっているので当然の結果でしょう。
人件費の低い補助者を増やしたことで一人当たりが下がっている構図になっているのでしょうが、報酬総額がそもそも減少しているのも気になるところ。
報酬総額が減少していることは、補助者の割合増加では説明できず、社員・会計士への報酬が減っている可能性が高いと考えられます。しかし、安易に報酬を下げるとただでさえ離職傾向の会計士の反発を食らう可能性大。
ここはさすがのトーマツ。抜かりありません。
実はトーマツは今年、配当を出しています。通常の株式会社では株主に配当を出しますが、監査法人は出資者であるパートナーに配当を出す形になります。
配当総額は1,757百万円。社員1人当たりだと約3百万円。結構な金額です。
ここで、報酬の減少幅を改めて見てみますと、2,142百万円。概ね減少額に近い金額を配当で出しています。
そして、重要なのは配当はPLには出てこないので、利益調整にばっちり使える!
ここから推測されるのは、今年の報酬減額はパートナーに対するもの。
ただし、配当の形である程度はパートナーに補填を行うことで、反発を抑えている。
本当はPLに計上すべき報酬を配当の形で出すことで、営業利益を確保。これは、営業赤字回避のための利益操作。
他にも見えないところでいろいろやってるんやろうな!
さすがです。各監査法人はこれを参考にしましょう。困ったときは報酬を減らして配当増やせです!
まとめ
いやーおもしろい。
利益確保のためにいろいろ奔走しているのがよく伝わってくる良い決算書です。
「頑張って売上増やしたけど、デロイトの上納金負担が大きくてこのままでは営業赤字。そこでパートナーの報酬を減らして営業黒字確保!でも反発怖いし、PLには出てこない配当出したので、パートナーの手取り的にはあんまり影響ないからパートナー許してね。
引っ越しも重なって、危うく最終赤字になりそうだったけど、子会社をうまく利用して黒字にしたよ。」
という感じ。
配当を使うというのが秀逸ですね。これがなければ営業赤字。
来期以降はどうやって対応するつもりなんでしょうね。
早く来年来い!