本日は監査計画(Planning)です

前回の講座を見てない方は、ぜひこちらから。

監査を効果的かつ効率的に行うためには、適切な監査計画の設計が欠かせません。

監査計画は、1年を通じて行われる監査の設計図、骨格です。

ただし、企業活動はなかなか思い通りには進みません。当初計画で想定してないことは日常的に起こります。その度に計画を修正し続けます。

監査計画は監査手続に先立つプロセスですが、最初にやって「はい終わり」ではありません。

契約前から計画ははじまり、監査の終了まで継続的に行われるのです。なので、監査の全体像を把握するまでに計画の全体像を理解することは難しいです。

今後、内部統制評価、監査手続、監査報告書等を学習していきますが、それぞれ監査計画をベースに行われます。具体的に監査意見を出すために何が必要なのか。効果的かつ効率的に達成するには、どういう人員を配員するか、手続を設計するかということを決定していくことが監査計画にあたります。

すべての計画は監査意見を表明するために行われているんやで

監査リスクと重要性 Audit Risk and Materiality

監査計画の設計の話に入る前に、そもそも監査人は何を根拠に監査の目的である監査意見を表明できるのでしょうか?

ここで重要になってくるのが、監査リスクと重要性の概念です。

監査意見を表明するには、監査リスクを合理的なレベルまで低減させる必要があります。

監査リスクとは?

監査リスクとは「財務諸表に重要な虚偽表示がある場合に監査人が不適切な意見を表明するリスク」のことです。

要は、ミスってるのに気づかず間違った監査意見を出すリスクです。監査の目的は監査意見を出すことなので、これを間違えるのは致命的です。なので、監査リスクを低くすることが監査意見を出す絶対条件なんですね。

監査リスクは下記の式で求められます。

監査リスク=固有リスク×統制リスク×発見リスク
AR(Audit Risk)=IR(Inherent Risk)×CR(Control Risk)×DR(Detection Risk)
これは考え方の話なので、具体的な数字に落とし込むことは難しいと理解してください。
まずは、各リスクはどういう意味なのかを確認します。ただ、この定義を見ても

うん。なるほど。わからん。
となりますので、簡単な例も見てみましょう。

固有リスクとは?

内部統制が存在しないと仮定した場合に、その科目の特有の性質から重要な虚偽表示の可能性が起こりうるリスクのことを言います。
これは、企業サイドのリスクですね。

統制リスクとは?

その科目に関する内部統制が機能しないことにより虚偽表示が防止、または発見是正されないリスクのこと。
これも企業サイドから生じるリスクです。

発見リスクとは?

虚偽表示を監査人が監査手続を実施しても発見できないリスクのこと。
これは監査人サイドのリスクです。

例えば現金のケース

例えば現金を監査するとします。
通常、下記のような要因で固有リスクは低いと判断するでしょう。
  • 見積もりの要素なし
  • 現物がある
  • 通貨であるので、評価もクソもない(外貨でも客観的なレートがある)

これが工事進行基準の売上とかやったら、わざと売上増やしたりできるし、金額的影響も大きいから固有リスクは高くなる事が多そうやな!

 

次に、統制リスクです。
大半の上場企業(中小企業であっても)は、現金実査を少なくとも入出金が実際にあった日には行い、帳簿と一致するかを確認する内部統制を行っています。
こういう内部統制を監査人がちゃんと正しく機能しているかを評価し、有効に機能していると判断すれば統制リスクは低いと判断します。
今回は、有効と判断したとします。

逆に、現金の現物と帳簿がずれているのに気にせんと放置しているような会社の内部統制はあかんっちゅうことや。その場合は統制リスクは高いってことやな。
さて、最後は発見リスクですが、ここで、実務の考え方も併せてみてみましょう。
発見リスクは監査人側でコントロールできるリスクです。低くするためには、実証手続を手厚くやればいいわけです。ただ、むやみやたらに手続をしていると監査は終わりません。
ここでポイントになるのは、「意見を出すために監査リスクを合理的に低くしたい!」です。
先程の公式に戻り、今回のケースで少し考えてみます。
監査リスク(低にしたい)=固有リスク()×統制リスク()×発見リスク(?
どうでしょう、このケースなら、発見リスクは多少高くでも監査リスクは抑えられるような気がしないですか?こういうケースはそんなにがっつり手続をしなくても監査リスクは合理的に低い水準に持っていけます。
逆に
監査リスク(低にしたい)=固有リスク()×統制リスク()×発見リスク(?
のケースなら、発見リスクを低くしないとやばいと思わないですか?要は手厚い手続が必要です。
監査手続はこういうことを考慮に入れて設計していきます。

やばいところに力を入れる。いわゆるリスクアプローチの基礎になってるんやな。

応用編

現金勘定は、通常、実証手続として現金実査をします。これはかなり証明力が高い手続きなので、発見リスクを「低」にもっていけます。そして通常の場合、それほど手間はかかりません。このケースでは、統制リスクを高くしてしまっても監査リスクを低くできると判断するケースがあり得ます。
監査リスク(低にしたい)=固有リスク()×統制リスク(?)×発見リスク(
統制リスクは企業サイドの問題なので、監査人側で高い低いを決めれないのでは?と思うかもしれません。しかし、監査人が内部統制評価を行わないと高いか低いかはわかりません。そして、この評価、けっこう時間がかかります。なので、あえて内部統制評価をせずに統制リスク「高」を受け入れる戦略もあります。

実証手続ありきで、内部統制評価をするかしないか判断するケースもあるし、
内部統制評価ありきで、実証手続を設計するケースもあるってことやな。どっちにしてもARは低くなるからな。
「ARの部分が低くなれば目的達成」ってことを忘れたらアカンな。

重要性とは?

さらに監査で重要になってくるのは重要性(Materiality)です。

監査の目的は、「財務諸表全体に重要な虚偽表示があるかないかの意見を表明すること」です。

別にミスゼロを目指してるわけではないねん。
「重要な」ミスがなければ適正意見は出せるねん。

ここで重要になるのが「監査上の重要性の基準値」です。

これはステークホルダーがどの程度のミスなら、間違った判断をしないかを考慮して決められます。

そもそも、監査の目的はステークホルダーの保護にありますので、ステークホルダー目線で決定されるんですね。

例えば、100億円の利益の会社が1億円ミスしてても大きな問題ではないでしょう。

ところが、1億円の利益の会社が1億円ミスしていれば、利益が2倍にもなってしまいます。これは株主等の判断に大きな影響を与える可能性が高いです。

こういったことを考慮して、重要性の基準値は決定されます。

実務では税前利益の5%を使ってる監査法人が多いんやで!

重要性の基準値はどういう時に使う?

これは監査計画から実証手続、意見表明まであらゆる場面で使います。

例えば、重要性基準値が1億円のケースで簡単なイメージを持ちましょう。

監査計画段階

どの勘定をしっかり監査するかを決定しますが、1,000万円の預り金があったとしても金額的に重要性の基準値を下回っており、重要性は低いと判断します。

重要性が低いと、内部統制評価をしなかったり、手続も分析だけ簡単にやっておしまいにするケースも多いんやで。
そもそも、仮に全額間違ってても監査的にはあんまり影響ないってことや。
実証手続

ミスがみつかった場合に、どう処理するかの基準値です。

3億円のミスがあれば、そのまま意見を出せないので会社に修正を依頼します。

数百万円ぐらいなら何もしないケースも多々あります。

総括

ミスを集計して、個別にも合計しても基準値を超えないことを確認します。個別で見れば1,000万円のミスでも、集計すると1億円を超えることもありえますので。

ここでも基準値がベースになります。

 

監査計画は、監査の肝やで。
量も多いし、今日はここまで。
次回も監査計画の続きやで!
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