
経営財務3382号に紹介されていた記事「監査経験者の経営者は決算操作しがち」が興味深かったため、元の記事を読んでみました。
fa-arrow-circle-rightLINKThe Dark Side of Accounting Expertise
ざっくり言うと、会計士出身のCEO、CFO等のエグゼクティブがいる企業の財務諸表の虚偽表示がかなり増えるという内容です。
Contents
The Accounting Review掲載の研究の内容
この研究のタイトルは"Do Auditors Recognize the Potential Dark Side of Executives’ Accounting Competence?"でThe Accounting Reviewに掲載されています。
訳すと「監査人は役員の会計スキルの潜在的なダークサイドを認識しているのか?」
大学教授らの研究ですが、なんとも面白いタイトルです。
従来の考え方
この研究以前は、高い会計スキルは財務諸表の虚偽表示を減らす役割があるとされてきました。逆に、高い会計スキルの欠如は、虚偽表示の要因であるとされてきました。
この考えを受けてPCAOB(監査の監督機関)も役員の会計スキルの欠如を虚偽表示の主要なリスク要因としています。
例えば、役員に会計スキルがなければ、本来減損すべきであるのに減損の要否にすら気付かず、そのまま虚偽表示の財務諸表が公表される可能性もあります。
研究で示されたこと
従来の考え方と異なり、役員に会計スキルがあろうとなかろうと虚偽表示は起こりうる、むしろ虚偽表示が増える可能性があることを示しています。
監査法人出身者は監査手続や交渉方法についての知見を有していることから、その能力を利用して虚偽表示を隠したり、外部監査人からの指摘に対する交渉等に長けているとしています。
しかし、教授らはこの会計スキル自体が不正要因と言っているわけではなく、この会計スキルとインセンティブ報酬(業績連動型報酬)というもう一つの不正要因と組み合わさると不正要因になりうると指摘しており、下記の研究結果はそれを示しています。
役員の報酬が中位を超えている会社を報酬下位の会社と比較すると4%虚偽表示率が増加
〈上級役員に監査法人出身者がいるケース〉
上記と同様の比較で30%虚偽表示が増加
研究の対象となる企業は3,252社の公開企業です。過去10年のデータで、CEOやCFOといった上級役員に監査法人のパートナーまたはマネージャー出身者がいる場合といない場合の財務諸表の虚偽表示について研究しています。
また記事では、監査人が会計知識のあるエグゼクティブを過信しているとも指摘しています。つまり、従来の考え方では会計知識のあるエグゼクティブは財務諸表の信頼性を担保するひとつの要因として考えられていたため、監査リスクをあるべきレベルよりも下げて手続を行っていた可能性があるということでしょう。その結果、本来であれば検出できた虚偽表示を見過ごしてしまったケースもあると考えられます。
反省せねば。。。
先程の例でいうと、会計知識のある役員は減損の必要性については十分認識しているのに、それを回避するためにいろいろな会計スキームを組んだり、監査法人を説得したりして、なんとか減損を回避し業績を良く見せたりする可能性が高まるということだと思います。
まとめ
この研究は非常に興味深いです。この考えが常識になった場合、株主はエグゼクティブにCPAが含まれる場合に決議に反対する可能性もありえます。しかし、その場合には会計知識がないエグゼクティブが選出され、結果的に誤謬(知識不足等による意図していないエラー)による虚偽表示が出る可能性もあります。
記事の言う通り、CPAは諸刃の剣でその能力をよくも悪くも利用することができます。
これを防ぐには、まずはCPAの倫理観の向上、そして外部監査人の先入観の排除が大事になるでしょう。
今日の英単語 "Bean counter" "C-Suite"
元記事を読んでいて、初めて見た単語があったので紹介します。
Bean counter
直訳だと、「豆を数える人」ですが、ここから転じて細かいことを気にする「経理屋」「銀行屋」を意味します。
会計士、経理マン、銀行員を少し軽蔑するようなニュアンスの表現なので、使うときは気を付けましょう!
C-Suite
上級役員のことを指します。CEO、COO、CFO等の頭の文字"C"(Chief)から来ています。
C-Levelとも言われます。