世間では、公認会計士と税理士の区別がついていない人が多くいますが、実際のところ何が違うのか、そして受験をするならどちらがいいのか、独断と偏見でまとめていきます。

公認会計士業務

まず、「公認会計士とは」ですが、公認会計士しかできない業務は”監査”です。
監査とは、上場企業や、大企業が公表する財務諸表の適切性をチェックする役割を言います。
例えば、トヨタ。売上が何兆円とか、どういう資産もっていますかという情報をトヨタは財務諸表を作成して世間に公表しなくてはなりません。しかしこの時、財務諸表を作るのはトヨタ自身です。少し売上を盛っておこうとか、借金は少なく見せようとかやろうと思えばできるわけです。しかし、こんな嘘の財務諸表を公表されては、投資家や世間の人は財務諸表を信用することができません。ここで、公認会計士が”監査=財務諸表のチェック”を行うことで、その信頼性を担保しているという仕組みです。

税理士業務

一方の税理士ですが、独占業務は税務申告、税務相談です。
確定申告書を作ったり、個別の相談をしたりできるのは税理士だけです。ファイナンシャルプランナーでも税務の話は避けて通れませんが、FPは一般論の話しかできません。個別の内容に入って相談することは税理士法に違反します。

公認会計士vs税理士 どちらを受験すべきなのか??

さて、以上の業務の違いがありますが、個人的な見解をいかに羅列していきます。

試験制度の違い

まず、合格率の違いを見てみましょう。

合格率 公認会計士試験 税理士試験
2018年試験 11.1% 15.3%

合格率だけ見ると、そこまで大きな差はないです。
ただ、仕組みの違いは大きいです。

基本的には、公認会計士試験はすべての科目を同時に受けて、すべての科目トータルで合格点を目指す短期戦です。1科目でも落ちれば、残念やり直しです。社会人には酷な制度です。

一方で税理士試験は科目合格性で、5科目合格した時点で合格になります。なので1年で1~2科目程度の科目合格をコツコツやっていく長期戦になりがちです。こちらは社会人でも比較的取りやすい資格といえます。1科目ずつなので、合格率が高まるということでしょう。

向き、不向きがあるのでどちらが簡単、難しいというのはなかなか判断しにくいですが、公認会計士試験は同時に勉強する範囲が広いため、どうしてもまとまった時間がないと難しく、学生や無職でないと合格できないという実態があります。

あとは、公認会計士資格を保有していれば、税理士資格は面接のみで取ることができますので、どちらも取りたいという人は必ず公認会計士の資格をまずとりましょう。税理士から公認会計士は再度試験を受けないといけませんので、しんどいです。
この点については、圧倒的に公認会計士の資格が強いといえるでしょう。

就職先

個人的には公認会計士の方が就職先は圧倒的にいいと思っています。
公認会計士の場合、まずは監査法人勤務からキャリアをスタートするケースが多いでしょう。
そして、この監査法人には4大監査法人(BIG4)というものが存在し、合格者の半数以上はこのBIG4に入ります。
BIG4は大企業以上の規模を持っており、クライアントの多くも大規模上場企業です。

キャリアプランもいろいろなものを考えることができます。
監査以外にも海外駐在、コンサル、IPO、営業と様々なキャリアを歩むことが可能です。
また、いわゆるサラリーマン的な働き方になりますが、新人教育の仕組みはしっかりしていますし、一歩一歩着実に成長していけます。英語教育にも最近は力を入れており、ネット英会話教室の補助金等が出る法人もあるようです。
5年も監査をやれば、会計士として戦う土台はできますし、一般的なビジネスマナーも身につくことから、ある意味で標準的な会計士製造工場的な面もあります。
近年は働き方改革が進められており、21時以降の残業はできない法人も多く、5年前までの終電帰りが普通という環境ではなくなっています。

税理士界は、いくつか大きな税理士法人はありますが、多くは10名程度の小さな法人です。就職した先次第で、いい先生、クライアントに出会えるかどうか、ブラックかホワイトか、かなりギャンブル要素が高くなります。実際、話を聞いているとわりとブラック率が高めだと感じます。

クライアントの傾向

公認会計士と税理士では、クライアントの傾向は異なります。

監査法人に勤務する公認会計士は、上場会社がメインのクライアントになります。
特にBIG4の場合は比較的大規模のクライアントが多くなります。
比較的、経理に詳しいきっちりしたサラリーマンと仕事をすることが多いです。
なので、クライアントの方が経理実務知識が高いケースも多く、緊張感はあります。
また、クライアントのミスを調査する監査という職業柄、仲良くなることはあっても、お互い警戒心をもって仕事をすることになります。

一方で税理士は、中小企業や個人事業主が多いです。
なので、クライアントと税理士との経理知識差は大きく、圧倒的に税理士有利の状況です。
そして、クライアントの経理的な立場で仕事をすることが多いため、会社の仲間的な立場で仕事をすることが可能です。
ただ、一般的に無茶を言ってくるクライアント(中小企業のおっちゃん)が公認会計士より多くなるのは間違いないので、ある程度クライアントを抑えつける力も必要です。

感謝されやすさで言うと、税理士の方がクライアントから感謝されることは多いでしょうね。監査はあんまり感謝されません。
この点、どちらがいいという話ではないでしょうが、良くも悪くも官僚的な組織が見れるのは公認会計士の方でしょう。一方で企業の創業期をともに歩むことができたり、小さい企業が成長していく様を見ていけるのは税理士の方でしょう。

得られる能力

公認会計士は監査を通じて様々な知見を得ることができます。
当然ですが、監査に必要な会計知識は身につきますし、常に最新の会計基準や解釈に関する研修やノウハウに触れることができます。
監査に必要な会計知識は、世間的に必要とされる会計知識以上のレベルですので、転職するにしても十分な知識を得ることができます。
そして、内部統制の評価を通じて、会社の業務の流れを知ることができます。これは監査の魅力だと思います。
一般的なコンサルでは、業務の一部を切り取り、その部分の改善を行ったりしますが、監査の場合はメイン業務の全体図を理解することが可能です。
そして、監査手続を通じて、各種の会議体の議事録を見ることで、どういう過程で決断を行ったのかも知ることができます。
監査を5年やれば、様々な企業の業務の流れを知り、いろいろなノウハウを獲得することができるでしょう。
ただし、業務と言っても管理側の業務がメインです。営業実務とかのノウハウはあまり接することはないでしょう。

公認会計士はこのような経験をして、次のキャリアを考えるのが一般的かと思います。

一方の税理士ですが、どのような業務をするかによって得られる知見は大きく異なります。
小さい税理士法人であれば、法人税・所得税・消費税・相続税なんでも来い!的な経験を積めるでしょうが、比較的単純なビジネスが多いでしょうし、毎年同じクライアントでのルーチンワークが多くなってしまいます。
一方で、大規模法人であれば、専門的な部署につけられることも多いでしょう。移転価格税制等の国際的な大規模業務を行うこともあります。
また、コンサル的なものがメインの法人であれば、営業戦略の提案や手伝いまで行うこともあります。
このあたりは選択肢が多いので、自分のキャリアを意識して事務所を選ぶ必要がありますね。

個人的な感覚では、公認会計士は上場会社向けのノウハウがたまるので、上場会社の経理やコンサルに転職しやすい能力が身につくと思います。
一方で、税理士は自分の専門分野次第ですが、法人税・所得税の知見があれば独立しやすいのは間違いないです。一方で、移転価格税制等では独立しにくいでしょうが、国際業務を行う大企業からのオファーは多いでしょう。

独立

士業の資格を取ったからには独立したい!という人も多いでしょう。
独立志向が高ければ、税理士の方がさっさと独立しやすいでしょう。

税務申告は、ある程度経験を積めばそこまで難しくありません。特に、個人や零細企業相手であればなおさらシンプルな申告書でOKなので、営業力の高さが勝負を決めます。数年、会計事務所でノウハウを吸収すれば十分食べていけます。

一方で、会計士の独立は、税理士資格をとって税務業務を行う人が多いのが実態ですので、独立志向の方は最初から税理士を取った方が早いでしょう。
最近は、IPOがらみで独立したり、内部統制業務やIFRS業務と、監査の経験が生きる形での独立も多いですので、どういう道を進みたいかで、会計士か税理士を選ぶといいでしょう。
独立に時間がかかってもいいのであれば、会計士資格をとって、監査で基礎を固めて、税理士事務所でノウハウを吸収し、独立するのがオススメです。

平均年収

さて、最後になりますが年収です。転職サイトのMS-Japanの記事を参考にしました。転職者の年収なので業界平均よりも高くなっていると思います。
【2019年上半期】資格別(公認会計士・税理士・弁護士) 転職マーケット動向レポート

公認会計士:700万~1200万円

税理士:600万円~800万円

これを見ると、公認会計士の方が高いですね。これは公認会計士は上場企業・コンサル・監査法人等、比較的年収高めの転職先が多いのに対し、税理士は小規模の税理士法人が転職先に多いからだと思います。

ただ、この数字はあくまで企業の勤務者であって、独立してしまえば年収は税理士の方が高いんじゃないかなという気はします。

結論

公認会計士は大企業向き、税理士は個人・零細向きでかつ独立志向が最初から高い人におすすめだと思います。
ただ、私はどうせとるなら公認会計士の方がおすすめです。
最大の理由は、税理士資格を取ることもできるという点です。公認会計士と税理士のメリットをどちらもとれるというのは非常に大きいです。BIG4に入れば大企業での様々な経験ができますし、いわゆる標準的な公認会計士に必要な経験はすべて積むことができます。独立したいなら3年程度の監査実務経験を積んでから、税理士事務所で働いても遅くないと思います。

ただ、社会人の方の場合、働きながら公認会計士試験をパスするのはかなり大変なので、税理士をとるか、いっそのこと米国公認会計士を取るというのも手だと思います。米国公認会計士なら、日本の公認会計士と同じような経験をすることも可能だと思います。

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