仰星監査法人が開発したAIを中小監査法人等をターゲットに外販していく的な記事が2018年11月21日の日経新聞にありました。準大手監査法人の仰星と財務コンサルのZECOOパートナーズが業務提携し、開発していくようです。

AIで会計不正検知 仰星監査法人、システム外販

 

私は、準大手・中小はこのAI開発への投資が金額的、人材的な問題で難しいこと、海外ファームのものを使うにしても日本語の壁が大きく、実質自分たちで作り上げないといけないような状況にあることから、いずれ大手の「AI化+省力化⇒価格破壊」にやられるのではと危惧していました。

この点、監査AIを仰星監査法人が開発し、それを他の中小法人が購入するという選択肢が出てきたことは、非常にいいことだと思います。

 

しかし、仰星とZECOOのプレスリリースみてると、少し不安になります。不安になる点をいくつか挙げてみます。

仰星監査法人 プレスリリース:不正検知システムの開発開始のお知らせ

 

プレスリリースと日経記事から感じる不安

まず、時系列を見ます。

2017年7月

仰星監査法人がRPA や不正検査、AI が実装されているマーケティングオートメーションなどの知見を持ったメンバーで構成されるプロジェクトチーム「IT 監査-PJ」を設立

2017年(月は不明)

ZECOOがシステム開発事業を立ち上げ、旧来の「会計処理のIT 化」とは異なる新しい形の財務・会計と IT の融合を目指したソリューションを提供

2018年11月

仰星監査法人とZECOOが「AIとロボットを活用した監査支援システムの開発」に関する提携を発表。これを受けて、ZECOO が開発・販売している財務分析システム Laplace®上で稼動する「AI 技術を活用した不正検知システム」の開発を仰星監査法人が開始。

2019年7月ごろから

実際の業務に適用

将来

外販開始

 

AIに関してぼくは素人やけど、それにしても不安要素多くないか?

まず提携開始(AI開発開始)から適用の2019年度までの期間は約半年です。短すぎない?

ZECOOのシステム開発事業の立ち上げも2017年って、運用1年してるかしてないか。あと会社住所のオフィスみてたら、150㎡程度のオフィス。コンビニぐらいのサイズですね。本業はシステム屋ではなく、財務コンサルで株価評価とかそっち系がメインっぽいので、どの程度のリソースをシステムに割けるのか。代表取締役が統計1級を保有しているということで、すごいことではあると思うのですが、それとAIの知見は別物だと思うのです。どの程度の人材がそろっているのか気になります。

 

あとは、仰星のAI担当部署はプロジェクトチームです。部署じゃありません。失礼を承知の上でいうと、AI人材ってすごい高給取りだと思うのですが、払えるのでしょうか?AI人材を採用して、情シス部とかに所属させてプロジェクトチームに参加させているのでしょうか?まさか「知見を持ったメンバー」ってシステムわかります程度の会計士じゃないですよね?そしてこっちの稼働も1年程度。

 

すごい失礼ですが、1年経験者と1年経験者が作るAIにそれほど期待できないように感じてしまいます。しかもどちらもAIが本業ではなく、会計士をバックグラウンドとしたコンサルと監査法人。AIってそんなにお手軽でしたっけ?

 

日経記事によると

新システムは過去の財務諸表のデータと会計不正の事例を分析して関係性を指数化する。企業の監査では、のれんの減損処理や利益調整などに関係する項目で不正の「危険ライン」を示す。

らしいのですが、極めて狭い範囲で活躍するAIに過ぎない可能性大です。

しかも、これってAIなの?
一定の範囲に入ったらアラート出すただのシステムで、場合によってはエクセルでもできそうな気がせんでもない。AIって言いたいだけなのでは。。。

誰が買うのでしょうか?(もちろん、すぐに売るわけではないので、冒頭の通り将来的な期待はしていますが。)

そしてこの実験台としてAI導入させられるチームはかなりめんどくさいことに巻き込まれそうな気がします。

ほぼ間違いなく仕訳データをAIに食わせなければならず、その加工もめんどくさいですし、監査手続き的にも、AIのテスト目的でも、出てくるアラートには対応せざるを得ないでしょうから、精度によってはえらい煩雑なことになってしまうように思います。

新日本のAIとの比較

日経記事に出ている新日本のAIの状況を見てみます。プレスリリース、新聞記事からわかる時系列はこんな感じです。

2016年7月

将来の不正会計を予測する仕組みを導入し、会計監査の品質管理の高度化に取り組む。

東京大学大学院経済学研究科の首藤昭信准教授と協働し、不正会計予測モデルの精度の向上を図っていく。

2016年11月

「Smart Audit」の実現を推進する研究組織、アシュアランス・イノベーション・ラボを設置経営執行役員をトップとして、公認会計士、コンピュータサイエンティスト、データサイエンティストを中心に80名ほどの体制でスタート。アシュアランス・イノベーション・ラボは、外部有識者やテクノロジー関連企業、またEYのグローバルネットワークとも連携。

2017年11月

AIによる会計仕訳の異常検知アルゴリズムを実用化。実務に落とし込むため、先端デジタル技術の監査現場への活用を推進するため新設したDigital Audit推進部(100名体制)により、監査先企業に順次展開。

2018年冬

人工知能(AI)を用いた監査システムの解説などができる施設「ウエーブスペース」を東京・有楽町につくる。提携する監査法人の世界大手、アーンスト・アンド・ヤング(EY)などと情報交換をするインターネット電話や会議室などを備える。企業の経理データなどを取り込みAIで分析する過程や、作業の進め方なども説明する。

金に物を言わせた感があるけど、正直、仰星のAIとはレベルが違うように思うねんけど。。。

正直、新日本と仰星を比べると、それぞれが考えるAIは完全に別物と考えておいた方がよさそうです。提携ファームからのノウハウという点でも、BIG4が圧倒的優位でしょう。

 

参考までに、仰星の入っている国際ネットワークはネクシアで、ただの提携会計事務所のあつまりみたいなものです。EYのようにEYとして活動しているわけではなく、一種の概念的なものなので、そこからノウハウを得ることはないと思われます。

仰星のホームページにも、以下の通り謳われています。

仰星監査法人は、大手監査法人と異なり、提携する海外ファームから提供される国内外共通の監査ツールに縛られることがありません。

むしろ、その自由度を生かして、日本の会計制度・監査の基準に国際監査基準を加味し、更にこれまでの経験を踏まえて、オリジナルのメソドロジーやツールを開発し、常に効率的かつ高品質な監査を行うよう心掛けています。

仰星監査法人ホームページより

まとめ

仰星監査法人がすごいなと思うのは、自社でもまったく利用していない開発を開始したばかりのAIを外販する予定と高らかに宣言するところ。

AI監査なんて、まだまだ初期段階に過ぎず、当然いろいろな試行錯誤が行われていく段階で、場合によっては失敗するかもしれない。そんな段階で「売りますよ!」というのは商魂たくましいです。。。

 

仰星はJ-SOXの時も下記サイトのようなJ-SOXツールを130万円で売ってるみたいです。こういう盛り上がりそうなところを見つけてビジネスにしていくのが好きなのかもしれません。

監査法人による内部統制構築・運用のための方法論、各フェーズでの支援ツールをDVD化 ~ 講義映像、テンプレート・サンプルコンテンツなどの各種ツールをDVD販売 ~

まあ、茶化すような事書いたけど、本当にAI販売はしてほしいと思うし、うまくノウハウを蓄積していけば中小監査法人にとって役立つツールになり得ると思うねん。
仰星さんには非常に期待しています。頑張ってください!!
おすすめの記事