最近は、監査法人界隈ではKAMの話題がけっこう出てきています。
KAMとはKey Audit Mattersの略称で、「監査上の主要な検討事項」と訳されています。
従来の監査報告書は定型文でしたが、今後は監査法人の出す監査報告書には、どういうところにどういう理由で注目して監査を行ったのか等の企業に応じた記載が求められるようになります。
私自身、KAMについて研修を受けたり記事を読んだりしていますが、やはり実例を見に行った方が早いと思いますので、いろいろな事例を見ていきたいと思います。
前回のバーバリー同様、英国上場企業を選びます。今回は、日本でも有名なロールスロイスを取り上げたいと思います。なお、ロールスロイスというと、高級車をイメージする方も多いですが、現在の車の会社としてのロールスロイスはBMW傘下にあるようで、今回取り上げるRolls-Royce Holdingsは航空機エンジンがメインの会社になっています。
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2017年 ロールスロイス アニュアルレポート
今回は2017年のAnnual Reportを参照していきます。
会計監査人はKPMGです。監査報告書(Independent Auditors' Report)はP.183~P.194の12ページです。
最初は日本や米国基準と変わらない定型文です。次の項目からがKAMになっています。
なお、今回のKPMGのスタイルは、PwCのようなOverviewはなく、いきなりKAMの説明から入ります。
見やすさでいうと前回のバーバリーのPwCのほうが見やすいですね。
Key Audit Matters!
さて、ざっと眺めていると、なんとも意味不明な図が挿入されています。
「Dynamic Audit Planning Tool!」
「ダ、ダイナミックオーディットツール。。。なんだこれは!かっこいい名前だ!しかし、何を意味するのかさっぱりわからん。」
という印象を最初持ちましたが、よく見るとなんとなく意味が分かります。
縦軸は「財務諸表への潜在的な影響」で、横軸は「重要な虚偽表示の発生可能性」です。
要は、この表の右上に行けば、「影響も大きくて、発生した場合には重要な虚偽表示になる可能性が高いもの=KAM」になるという理解です。
この表のA~Iの青い●がKAMで、矢印は昨年からの動きを示しています。そして、青くなっていないJ~TはKAMではないものの、重要なリスクである「Key Risk」を意味します。例えばJの「Liabilities arising from customer
financing arrangements」は2016年では上の方に位置し、KAMに選定されていましたが、2017年には下の方に移動し、単なる「Key Risk」に格下げとなっています。
というわけで、2017年のKAMは以下の9個です。
・The basis of accounting for revenue and profit in the Civil Aerospace business(民間航空機事業の収益認識基準)
・The measurement of revenue and profit in the Civil Aerospace business(民間航空機事業の収益測定)
・Recoverability of intangible assets in the Civil Aerospace business(民間航空機事業の無形資産)
・Consequences of deferred prosecution and leniency agreements in connection with alleged bribery and corruption in overseas markets(海外市場での汚職に関連する起訴猶予と課徴金減免合意の結果)
・The presentation of ‘underlying profit’(異常項目調整後利益の表示。要は非GAAP項目開示)
・Disclosure of the effect on the trend in profit of items which are uneven in frequency or amount(頻度や金額のムラがある項目の影響の開示)
・Gains resulting from the acquisition of a controlling interest in Industria De Turbo Propulsores SA(Industria De Turbo Propulsores SAの支配持分取得に伴う利益)
・Disclosure of the impact of adopting IFRS 15(IFRS 15適用)
・The basis of accounting for revenue and profit in the Civil Aerospace business
・The measurement of revenue and profit in the Civil Aerospace business
・Recoverability of intangible assets in the Civil Aerospace business
・Liabilities arising from customer financing arrangements(顧客のファイナンシングアレンジメントから生じる負債)
・Bribery and corruption (わいろと汚職)
・The presentation of ‘underlying profit’
・Disclosure of the effect on the trend in profit of items which are uneven in frequency or amount
KAMの詳細説明



重要性の基準値、監査スコープ
KAMについては、上記の事項がメイントピックスです。次はPwC同様に監査スコープ、重要性の基準値の記載があります。KPMGはここで図を使っており、わかりやすいです。
・重要性の基準値をどう決めたか
監査上の重要性の基準値が記載されています。
会社(単体)の重要性:36百万ポンド(純資産の0.3%)
・監査スコープ(マルチロケーション)をどう決めたか
監査対象ユニットをどのように決めたか記載があります。以下のように図でカバー率が示されているのでわかりやすいですね。
監査対象は売上、利益、資産ともに90%近くをカバーしています。スペシフィックの会社のカバーについても記載がありますね。
なお、バーバリーは「監査対象となるレポーティングユニットは売上の74%、税前利益の80%を占めている」とのことでしたので、監査範囲としては、ロールスロイスの方ががっつりやっている印象です。
その他の項目
ここから下は、完全にテンプレートっぽいですね。KPMGもPwCも同じです。
・GCに問題がないか
問題ない旨記載されています。
・Annual Reportに記載されている戦略レポート、役員レポート、監査報酬、その他に問題がないか
適切である旨記載されています。
・財務諸表の作成責任と監査責任について
監査人の責任は監査意見を出すことにあることについて記載されています。
まとめ
以上、ロールスロイスのKAMでした。
経営者不正や収益認識、無形資産や、通常の取引ではないようなものについての会計処理について重点項目としていました。このあたり、日本の監査法人も選ぶであろう項目がピックアップされており、なんとなくの安心感があります。
いろいろ図を入れたり工夫もありましたが、Overviewの見やすさではPwCの方が見やすいですね。
Dynamic Audit Planning Toolについては、監査計画策定している我々会計士が見る分には面白いですが、一般の人はこれを見てどう思うのか気になるところです。