最近は、監査法人界隈ではKAMの話題がけっこう出てきています。
KAMとはKey Audit Mattersの略称で、「監査上の主要な検討事項」と訳されています。
従来の監査報告書は定型文でしたが、今後は監査法人の出す監査報告書には、どういうところにどういう理由で注目して監査を行ったのか等の企業に応じた記載が求められるようになります。
私自身、KAMについて研修を受けたり記事を読んだりしていますが、やはり実例を見に行った方が早いと思いますので、いろいろな事例を見ていきたいと思います。
なお、日本における事例はまだありませんので、2013年から既にKAMを導入している英国の事例を見たいと思います。
ロンドン証券取引所の上場企業も有名どころがいろいろありますが、今日は三陽商会をどん底につき落とした「バーバリー」のKAMを見てみます。ビジネス的にそこまで複雑ではなさそうというのもKAMの参考にしやすいかと。
2018年 バーバリーアニュアルレポート
今回は2018年のAnnual Reportを参照していきます。
会計監査人はPwCです。監査報告書(Independent Auditors' Report)はP.129~P.136の8ページにも及ぶ大作です。
最初のページは日本や米国基準と変わらない定型文です。次のP.130からがKAMになっています。
Overview
監査アプロ―チの概要として、上の表のような重要性、監査スコープ、重点項目の記載があります。
Overviewページの冒頭にわかりやすい図が挿入されていますが、なんとなく日本の監査法人はこういう図とか苦手そうですね。BIG4あたりはデザイン系の部署もあると思うのでそのあたりがいい感じのテンプレートを出してくれるのでしょうか。中小監査法人はセンスが問われそうです。
(なお、2017年のAnnual reportには図がないので、2018年から図を採用したみたいですね。)
以降のページはKAMの項目の詳細がメインですので、とりあえずこのOverviewの表だけ見ておけばざっくり理解したことになりそうです。
監査報告書の順に詳細を見ていきます。
Key audit matters!
2018年のAnnualにKAMとして列挙されているのは、先ほどの図の"Areas of focus"の4項目です。
• Impairment of property, plant and equipment and onerous lease provisions.(固定資産減損)
• Accounting for the transfer of Beauty operations to Coty.(CotyへのBeauty部門譲渡の会計処理)
• Presentation of results and non-GAAP measures.(経営成績とnon-GAAPの開示)
面白いのは、non-GAAPの開示の妥当性を監査の重点事項にしている点です。あまり日本ではここを重点項目にはしないのではないでしょうか。あくまでGAAP基準の財務諸表に対して監査意見を出していると認識しているので。
参考に2017年のKAMは以下の5つ。同じ部分もありますが、黄色のラインのものは2018年にはなくなっています。
• Impairment of property, plant and equipment and onerous lease provisions.
• Completeness and valuation of provisions for tax exposures.(タックスエクスポージャーの網羅性と評価)
• Impairment of fragrance and beauty licence intangible asset.(フレグランスとビューティライセンス無形資産の減損)
• Presentation of results and non-GAAP measures.
では、2018年のKAMについて、ざっくり書かれていることを見ていきます。
1.Inventory provisioning 在庫引当
高級品の製造・販売を行っており、在庫評価の判断には需要やトレンドの影響を受け、この判断には経営者の将来予測に基づく期待が含まれている。
我々監査人は、批判的に在庫引当のポリシーの一貫性や根拠を評価し、テストし、経営者評価の仮定が適切か判断した。
結果、在庫評価は適切である。
という感じのことが書かれています。そんなに特殊なことは書いてませんね。
2.Impairment of property, plant and equipment and onerous lease provisions.(固定資産減損)
固定資産は、減損リスクがあり、減損判定に使用する使用価値モデルは経営者の判断による将来予測という仮定を含んでいることから、重点項目とした。
我々監査人は、経営者の評価の妥当性をテストした。特に将来の売上成長予測について重点を置き、それぞれの店舗が合理的な予測を反映していると判断している。そして、経営者の固有の判断に関して感度分析は適切に開示されている。
3.Accounting for the transfer of Beauty operations to Coty .(CotyへのBeauty部門譲渡の会計処理)
CotyへのBeauty部門譲渡に関して、前受金の金額が大きいため、重点項目とした。
前受金が適切に報酬と繰延部分に分けられているか検討し、妥当と判断した。
4.Presentation of results and non-GAAP measures.(経営成績とnon-GAAPの開示)
開示が適切か、特に調整が適切かは引き続き重点項目としている。
non-GAAPの開示も不適切なものはなかった。
その他の項目
KAMについては、上記の事項がメイントピックスです。その他、以下のようなことが書かれています。監査スコープ、重要性の基準値は会社に応じて書き換える必要があると思いますが、その他は割とテンプレート的な感じがします。
・監査スコープ(マルチロケーション)をどう決めたか
監査対象ユニットをどのように決めたか記載があります。「監査対象となるレポーティングユニットは売上の74%、税前利益の80%を占めている」とあり、ローカルチームを使用していることも記載されています。
・重要性の基準値をどう決めたか
監査上の重要性の基準値が記載されています。
会社(単体)の重要性:16百万ポンド(資産の1%)
これはけっこうビックリです。私の感覚ではあまり会社には伝えるべきではない項目だと思っていたからです。ある意味、監査の手口を教えているようなもので、どれぐらいのミスなら監査人はあまり厳しく言わないか推測できるからです。
なお、資産を重要性の基準値のベースにすることは珍しいと思いますが、これについて「会社はホールディングスカンパニーであり、損益よりも総資産が適切であるため」と記載されています。
・GCに問題がないか
問題ない旨記載されています。
・Annual Reportに記載されている戦略レポート、役員レポート、監査報酬、その他に問題がないか
適切である旨記載されています。
・財務諸表の作成責任と監査責任について
監査人の責任は監査意見を出すことにあることについて記載されています。
まとめ
以上、バーバリーのKAMでした。
見積関係や、通常の取引ではないようなものについての会計処理について重点項目としていました。
この点について、日本も同じような感じになると思いますが、日本では収益認識を重点項目としているケースが多いと思いますので、このあたりをどう処理するのか気になるところです。
しかし、監査報告書が8ページもあると監査法人としてはかなり手間がかかるのは間違いありませんね。