カルロスゴーンさんが有価証券報告書の虚偽記載で逮捕されています。

当社代表取締役会長らによる重大な不正行為について

会計士として、ゴーンさんが逮捕される理由がよくわからず、闇が深い感じがします。

まず、脱税や不正会計等の犯罪で逮捕されたわけではなく、金融商品取引法の開示情報の虚偽記載で逮捕されています。これは、直接的に日産からお金を不正に入手した容疑ではないという点は理解しておくべきです。

2018/11/20付の日経新聞朝刊の情報を引用すると、逮捕理由は下記の通りであり、やはり資金流用等ではありません。

特捜部によると、2015年3月期までの5年間で、実際にはゴーン会長の報酬が計約99億9800万円だったのに、計約49億8700万円だったとの虚偽の記載をした有価証券報告書を、5回にわたり関東財務局に提出した疑い。

 

まず情報を整理します。

ゴーンさんについて

昭和29年3月9日生まれの64歳。

ブラジル出身。

平成8年ルノーに入社しています。

ゴーンさんの報酬

カルロスゴーンさんの報酬推移は以下の通り。

なお、1999年(平成11年)よりCEOに就任していますが、有価証券報告書で1億円超の役員報酬開示が要求されているのは2010年3月期以降なので、それ以前は開示されていません。

今回問題になっているのは、下記のうち2011年3月から2015年3月分です。

年度 金額
2018年3月期 7億35百万円(金銭)
2017年3月期 10億98百万円
2016年3月期 10億71百万円
2015年3月期 10億35百万円
2014年3月期 9億95百万円
2013年3月期 9億88百万円
2012年3月期 9億87百万円
2011年3月期 9億82百万円
2010年3月期 8億91百万円

ゴーンさんの役職

現在は、
日産自動車代表取締役会長
ルノー・日産会社取締役会長兼最高経営責任者
三菱自動車工業㈱取締役会長
を担当しています。
日産は上記のプレスリリースで解任予定と言っていますね。

内部調査によって判明した重大な不正行為は、明らかに両名の取締役としての善管注意義務に違反するものでありますので、最高経営責任者において、カルロス・ゴーンの会長及び代表取締役の職を速やかに解くことを取締役会に提案いたします。

日産だけでなく、三菱自動車でも下記のプレスリリースが出ています。こちらも解任されるようです。
しかし、三菱の解任判断早くないですか?日産の言い分を鵜呑みにしすぎな気がします。

当社では、当社取締役会長が逮捕されたことを受けて、容疑の内容がコーポレート
ガバナンス及びコンプライアンスに関するものであることも踏まえ、カルロス・ゴー
ンの会長及び代表取締役の職を速やかに解くことを取締役会に提案することと致しま
した。
なお、当社において同様の不正行為が行われていなかったかどうかについては今後
速やかに内部調査を行う予定です。

三菱自動車工業株式会社 当社取締役会長の逮捕に関する報道について
ルノーの方でもプレスリリースが出ていますが、こちらは解任までは書かれていません。

Boulogne-Billancourt, November 19, 2018 – Philippe Lagayette, as lead independent director of Renault, in liaison with Board Committee Chairs Marie-Annick Darmaillac and Patrick Thomas, have acknowledged the contents of Nissan’s press release of today.

Pending provision of precise information from Carlos Ghosn, Chairman and Chief Executive Officer of Renault, the above directors wish to express their dedication to the defense of Renault’s interest in the Alliance. The Board of Directors of Renault will be convened very shortly.

Press release from Renault’s lead independent Director and committee chairs
November 19, 2018
(11月21日追記)11月20日にルノーが新しくリリースしてます。現時点では日産や捜査についてはノーコメントとのことですが、ゴーンさんはCEOの職にひとまず残るようです。まあ、判断できない以上、そうですよね。

Boulogne-Billancourt, 20 November 2018 – The Board of Directors of Renault held today adopted transitional governance measures to preserve the interests of the Group and the continuity of its operations.

The Board was chaired by the lead independent director Mr. Philippe Lagayette after the opening of judicial proceedings against Mr. Carlos Ghosn in Japan. At this stage, the Board is unable to comment on the evidence seemingly gathered against Mr. Ghosn by Nissan and the Japanese judicial authorities.

Mr. Ghosn, temporarily incapacitated, remains Chairman and Chief Executive Officer. The Board of Directors resolved to appoint Mr. Thierry Bolloré on a temporary basis as Deputy Chief Executive Officer Mr. Bolloré will therefore lead the management team of the Group, having the same powers as Mr. Carlos Ghosn.

During this period, the Board will meet on a regular basis under the chairmanship of the lead independent director to protect the interests of Renault and the sustainability of the Alliance.

The Board decided to request Nissan, on the basis of the principles of transparence, trust and mutual respect set forth in the Alliance Charter, to provide all information in their possession arising from the internal investigations related to Mr. Ghosn.

The Board endorsed the support expressed by the Nissan management to the Renault Nissan Mitsubishi Alliance, which remains the priority of the Group.

Board of Directors communication
November 20, 2018

何が悪いのか?

さて、逮捕要因は上記の通り、有価証券報告書の虚偽記載です。

要は、有価証券報告書の以下の部分で虚偽表示をしているという疑惑です。

 

「2015年3月期 有価証券報告書のコーポレートガバナンスの状況より」

<役員ごとの連結報酬等の総額等 但し、連結報酬等の総額1億円以上である者>

(単位:百万円)

氏名

役員区分

会社区分

総報酬

金銭報酬

株価連動型
インセンティブ受領権

カルロス ゴーン

取締役

当社

1,035

1,035

西川 廣人

取締役

当社

155

140

15

ここのゴーンさんの報酬が5年で合計約50億円足りないのでは?という疑惑で逮捕です。

逮捕されるほどの事なのか?

報道では、ゴーンさんが散財しているだとか、ブラジルや、レバノンに高級住宅を購入しゴーンさんに提供していたとか、「申告しなかった」という文言を無意味に使った報道がなされており、まるで会社を私物化し、背任・脱税し放題なので問題!と言いたげですが、逮捕の要因は金融商品取引法なので、議論がずれているケースが多数みられます。

民法、刑法、金融商品取引法の議論がごっちゃになっている印象を受けるものがほとんどです。

金融商品取引法に関連して報道されているものでも、ライブドア事件や西武事件と並列的に扱われていたりしますが、質が違うように思います。

ゴーンさんはいまの報道の限りではライブドアのように不正会計をしたわけではなく、西部のように上場廃止逃れをしていたわけでもありません。

そして、横領したわけでも脱税したわけでもないです。有価証券報告書の記載漏れです。普通は逮捕にはなりません。(有価証券報告書の虚偽記載は意外とあります。直近では例えばリクルートは会計処理ミスで四半期報告書の訂正をしています。でも捕まってないよ?)

そもそも、社宅等を報酬に含めるべきかどうかについては議論の余地が大いにあるものと考えられ(私の知る限り、社宅に住む取締役はたくさんいますが、有報の報酬には含めていません。)、仮にこれが報酬だとしても「訂正報告書」と呼ばれる有価証券報告書を訂正する資料を提出すれば済む話。

そして普通なら、社内で調査してこれに気づき、訂正しなければならないと判断したのであれば、ゴーンさんに伝達するか、有価証券報告書の担当責任者に伝達して訂正報告書を出すというプロセスになるはずですがそれをせずに、隠密内部調査からの特捜へのリーク。

(11月21日追記)ゴーンさんには修正すべきと伝達していたのに、ゴーンさんは「不要」といい記載していなかったとの報道があります。どういう事情で不要と言ったのかは今のところ不明です。ゴーンさんが「報酬じゃないだろ?」という意図で言ったのか「報酬だけど隠したい」という意図で言ったのかで判断は変わりますね。(追記終わり)

そして、背任やら横領で刑事告発すべきところ、なぜか金融商品取引法違反。

そして、日産の上記のプレスリリースにある善管注意義務違反は民法上の話で、特捜部がからむような話ではないと思われます。

 

大ごとではないことを大ごとにしたい事情があるように勘ぐってしまいます。

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