
USCPA講座。本日はAUDの監査の前提について説明します。
そもそもAUDとはなんぞや?という人は、まずは以下の概要を見てください。
Contents
監査基準 Audit Standards
監査は、会計基準(GAAP)と同様に、監査基準に従って行われます。
この監査基準のことを"Generally Accepted Auditing Standards"(GAAS)と言います。
AUDで学習していくAuditの内容は、このGAASがベースになります。
監査人に求められる能力から、監査計画、監査手続、監査報告書までこのGAASに定められています。
設定主体
ここで、このGAASは上場企業(issuer)と非上場企業(non-issuer)で異なるということを認識しておきましょう。試験対策としては、以下のように覚えておけばOKです。
企業の種類 | GAAS設定主体 |
---|---|
Issuer | PCAOB |
Non-issuer | AICPA |
補足:GAASはThe Public Company Accounting Oversight Board(PCAOB:公開会社会計監視委員会)が設定するものと、The American Institute of Certified Public Accountants(AICPA:米国公認会計士協会)が設定するものがあります。
従来、GAASはAICPAが設定していました。
しかし、エンロン事件をはじめとする会計不正事件を受けて成立したサーベンスオクスリー法(SOX法)により、PCAOBが公開会社を監査する会計事務所の監査業務の品質を監視する機関として設立されました。このSOX法はPCAOBに監査基準等の設定を認可しています。
とはいえ、USCPA試験においては、PCAOB版とAICPA版の区別を求める問題は出てきません。上場はPCAOB、非上場はAICPAとだけ覚えておきましょう。
GAASの優先順位
さて、GAASでもうひとつ押さえておく必要があるのは、基準の優先順位です。
監査基準も、GAAP同様に解釈指針(Interpretations)があります。
これもGAAP同様に、基準が優先されますので、押さえておきましょう。
SAS*>SAS Interpretations>other auditing publications の順です。PCAOB発行主体のものもあります。USCPA試験上は細かく覚えなくても、設定主体の名前がついている方が上とでも思っておけばよいでしょう。
*AICPAが公表する監査基準のことをSAS(Statements on Audit Standards)と言います。
二重責任の原則 Distinction Between Responsibilities of Auditor and Management
次に、監査の前提となる重要な概念である二重責任の原則を押さえておきましょう。(英訳が分からなかったので、SASからそれっぽいのをとってきました(-_-;))
要は、財務諸表の作成責任(直接的な作成に限らず、内部統制構築等含む)は経営者(会社)にあり、監査人の責任は財務諸表に監査意見を表明することにあるとするものです。
一見すると、「監査人がFSを作成した方が安心じゃない?」と思うかもしれません。
しかし、この場合には、監査人自ら作成したFSに自ら監査意見を表明することとなり、「自己監査」となってしまう点で大きな問題となります。あくまで独立した第三者が意見を表明することが重要になるのです。
さらにここで議論となるのは、ではどこまで監査人は財務諸表作成に携われるのかです。
「投資家等の利害関係者(Stakeholder)は適切なFSを求める、でも監査人はあくまで意見を述べるだけ。」では投資家のニーズを満たせません。
例えば会社のレベルが低く、
「これはダメです。この基準に従ってください。」
と監査人が言ったけど、会社がこの基準の意味を理解できない場合、
「じゃあ、こういう事例があるので、こういう風にやってください。」
と指導したとします。
これはある意味、監査人が財務諸表の一部を作っていると言えます。
ただし、この指導を行わない場合には不正確なFSが出来上がってしまうのです。この二律背反の状況で議論されるのが、監査人の指導的機能と批判的機能です。監査の本質を見るに、批判的に判断をしていく批判的機能が重視されるのですが、それでは適切なFSを求める投資家等の期待に応えられないため、指導的機能も監査の付随機能として必要となっているのです。
難しい問題やな。
独立性 Independence
監査を行う上で、最も重要と言われるものが職業倫理、そして独立性です。
でも、なぜ重要なのでしょうか?
例えば監査人が監査対象の会社の株をたくさん持っているとします。
その会社の業績が悪く、会社は粉飾してでも少しでも業績をよく見せたい状況だとします。
さて、この状況で監査人は客観的に、批判的に監査を行えるのでしょうか?
倫理観の乏しい監査人であれば、「これぐらいいいか。自分のもってる株の価格が下がっても嫌だし。」という判断を下しかねません。
また、仮に監査人自身が独立していると思っていても、投資家は本当に大丈夫か信頼できないでしょう。このような状況を避けるためにも独立性が重要なのです。
今でもこの職業倫理、独立性はよく議論の対象になります。
監査法人は監査対象となる会社からお金をもらっているのに、批判的なことをきちんと言えるのか?という批判が常につきまとっています。
つい最近のニュースでもそういう記事が出ていますね。
(2018/9/23 日本経済新聞)監査不信再び 「資本主義の負担」解見えず
USCPA試験ではここまでの議論は出てこないでしょうが、CPAを目指すなら常識として知っておきましょう。
職業的懐疑心 Due Professional Care
次にDue Professional Careについてみてみます。これは、職業的専門家としての正当な注意を意味します。日本の監査論で考えると「職業的懐疑心(Professional Skepticism)」の方がしっくりくるのでとりあえずこの言葉を充てています(職業的懐疑心とは、監査証拠を鵜呑みにせず、批判的に評価する姿勢のことを言います。)。実際には、Due Professional Careは職業的懐疑心を含むより大きい概念です。
日本の監査基準では、下記の部分に該当すると思います。
3 監査人は、職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査を行わなければならない。
監査基準 第2 一般基準
要は「ちゃんと監査しようね。」ということです。一定のスキルを持ち、スキルに合わせた業務を行い、ちゃんと上司はレビューしましょう、職業的懐疑心は監査中ちゃんと保持しましょうといった感じです。
ただ、この正当な注意を行使しても、監査によって得られる財務諸表への保証は「完全な保証」ではなく、あくまで「合理的な保証」を与えるものです。これは財務諸表監査には固有の限界があるためです。固有の限界の原因として、下記のようなものがあります。
- 従業員等による共謀(Collusion)
- 文書隠蔽や偽造等(Falsified Documentation)
- 経営者による職権濫用(Management Override)
・監査コストと効率のバランス(100%を目指すとコストがかかりすぎる。)
専門能力・知識の向上 Training and Proficiency
この専門能力の向上は当然に監査における前提になります。新しい基準や手続について常にアップデートしておかないと職業的専門家としての責務は果たせません。知りませんでしたではダメです。日々、勉強をし、専門家としての経験を積みましょうということです。
まとめ
さて以上で、監査の前提終了です。
この前提を頭に入れたうえで、次の監査計画を学習したいと思います。