USCPA(米国公認会計士)資格を取って、いずれはCFOになるという専門学校の謳い文句を見てふと疑問が湧きました。

上場会社の役員でUSCPA資格を持ってる人ってどれぐらいいるんかな?
というわけで、調べてみました。
USCPAを目指す方やUSCPAの方々のキャリアを考えるときの参考になると思います。

上場会社役員のうち、米国公認会計士は23人

2017年4月1日から2018年3月31日決算日の上場会社のうち、役員の状況に「米国公認会計士」資格を保有している人をピックアップしました。

有価証券報告書データから該当期間でのUSCPAを保有する役員の人数は23人です。

なおUSCPAの方すべてが職歴にUSCPAの記載をしているわけではないと思うので、あくまで職歴に米国公認会計士(またはUSCPA)と記載している人だけピックアップしています

USCPAを持っている役員はどんな人?

役員の略歴からどういう人がUSCPA役員となるのか調べてみました。

なお、複数の条件に含まれる人や、複数の会社の社外役員を兼務している人がいますので、合計すると役員数を超えます。

略歴 人数 割合
日本の公認会計士資格保有(ダブルライセンス) 14名 61%
日本の弁護士資格保有 1名 4%
監査法人勤務歴あり 18名 78%
常勤取締役(専務、COO、CSO等) 5名 22%
常勤監査役 1名 4%
常勤執行役(非役員) 1名 4%
社外取締役 4名 17%
社外監査役(監視委員会含む) 16名 70%
海外経験あり 11名 48%
未登録(合格のみ記載されている。) 2名 9%
ワシントン登録 2名 9%
ニューヨーク登録 2名 9%
カリフォルニア登録 3名 13%
ジョージア登録 1名 4%
モンタナ登録 1名 4%
登録州不明 12名 52%

 

公認会計士とのダブルライセンスの人が61%と高く、このうちほとんどが社外役員、社外監査役やな。

しかし、これからUSCPAを目指す方にはダブルライセンスはあまり関係のないキャリアだと思いますので、USCPAのみを保有する役員に絞ってキャリアを少し深堀したいと思います。

USCPA資格のみの役員の略歴

では、USCPA資格のみ保有する役員の略歴を見ていきましょう。

該当する役員は9名です。

リクルートホールディングス 監査役 西浦 泰明

生年月日 略歴
1952年3月28日生 1975年11月 等松・青木監査法人(現 有限責任監査法人トーマツ) 入所
1984年3月 米国公認会計士登録
1985年6月 米国ゴールデンゲート大学MBA(税務)取得
1987年6月 デロイト&トウシュ LLP パートナー
2011年6月 デロイト&トウシュ LLP 日系企業サービスグループ 米国西部地域統括リーダー
2016年6月 当社監査役(現任)

西浦さんは、トーマツ(デロイト)一筋で、定年退職後に監査役をやっているパターンでしょうか。

略歴を見る限りは、トーマツのアシスタント的な立場から米国公認会計士とMBAで箔付けして、デロイトのパートナーとのし上がっていった感じがします。

USCPA取得は32歳、MBAは33歳。職歴を見る限り、どこかのタイミングでアメリカに拠点を移したのでしょう。

デロイトのパートナーになれるかは別問題として、このUSCPA、MBA、海外勤務という流れはUSCPAが目指す一つのルートで、再現性があり参考になりますね。

ミクシィ 監査役 佐藤 孝幸

生年月日 略歴
昭和44年10月10日生 平成4年4月 スイス・ユニオン(現UBS)銀行東京支店入行
平成5年9月 ソシエテジェネラル銀行東京支店入行
平成8年4月 デロイト・トゥシュ・トーマツ会計事務所(米国サン・フランシスコ事務所)入所
平成9年7月 米国公認会計士(モンタナ州)登録
平成12年10月 弁護士登録(東京弁護士会所属)
平成14年4月 佐藤経営法律事務所代表(現任)
平成16年7月 エース損害保険(現Chubb損害保険)株式会社 社外監査役就任
平成18年10月 ステート・ストリート信託銀行株式会社 社外監査役就任
平成19年5月 株式会社シーズメン 社外監査役就任
平成19年6月 当社監査役就任(現任)

佐藤さんはなかなか強烈な職歴ですね。もともと外資系入行で、アメリカのデロイトに転職。USCPAとって、弁護士資格まで保有しています。その後独立といった感じでしょう。

USCPA取得は28歳ごろ。しかし、サンフランシスコ事務所なのにモンタナ州なのはなんでなのか?どうせならカリフォルニアの方がカッコイイのに。。。

この人の職歴はなかなか再現性が低いですね。おそらくもともと英語は得意でしょうし、弁護士資格まで取れる人はそうそういないです。。。

新日本科学 代表取締役副社長 COO 高梨 健

生年月日 略歴
昭和39年5月23日生 昭和62年4月 三菱商事株式会社入社
平成8年12月 SUASA KRISTAL(M)BERHAD入社
平成10年11月 同社取締役副社長就任
平成14年12月 当社入社 経営戦略本部理事
平成15年6月 当社経営推進本部新規事業室長就任
平成16年4月 当社執行役員トランスレーショナル リサーチ事業カンパニーヴァイスプレジデント兼経営企画副部長就任
SNBL U.S.A., Ltd. Director就任(現任)
米国公認会計士登録
平成16年6月 当社専務取締役トランスレーショナル リサーチ事業カンパニープレジデント兼経営企画部長就任
平成17年5月 当社トランスレーショナル リサーチ事業カンパニーヴァイスプレジデント就任
平成21年1月 当社グループ企業担当就任
平成21年7月 当社TR事業カンパニープレジデント就任
平成22年7月 当社TR事業担当兼新規事業担当就任
平成23年1月 当社NDS事業カンパニーヴァイスプレジデント就任
平成23年12月 当社経営企画本部長就任
平成24年5月 当社Global Business Development副本部長就任
平成24年7月 WAVE Life Sciences Ltd. Director就任(現任)
平成24年12月 当社Global Business Development担当就任
平成26年4月 当社海外事業統括部長就任
平成27年4月 株式会社新日本科学PPD取締役就任
平成28年6月 株式会社新日本科学PPD監査役就任(現任)
平成28年7月 当社取締役副社長海外事業担当就任
平成29年6月 当社代表取締役副社長兼COO就任(現任)
平成29年7月 SNBL U.S.A.,Ltd. Director, Group COO就任(現任)

高梨さんは、監査法人勤務歴なしで、あくまで箔付けというところでしょうか。

三菱商事で10年弱勤務し、転職後の新日本科学で代表取締役副社長まで上り詰めています。

USCPA取得は40歳。米国法人Director就任に合わせて登録していますね。もしかしたらUSCPA合格が決め手で米国法人Directorになっている可能性もあります。その後は海外事業関係を主に担当し副社長になっています。

これは、サラリーマンで社内昇格を狙う人の一つのルートでしょう。やはりUSCPAを取ると海外勤務や海外子会社の統括的なポジションを狙えますし、経理も経験している。社内でもそんなに競合はいないでしょうから出世しやすいルートだと思います。

エイベックス 監査役 玉木 昭宏

生年月日 略歴
昭和41年10月25日 平成6年9月 プライスウォーターハウス(現:プライスウォーターハウス・クーパース)ニューヨーク事務所入所
平成8年9月 監査法人トーマツ(現:有限責任監査法人トーマツ)入所
平成10年3月 米国公認会計士登録
平成12年1月 ㈱インテラセット入社
平成13年7月 ㈱イノベーション・アンド・イニシアチブ(現:㈱インヴィニオ)入社
平成18年6月 ㈱サイファ設立、代表取締役(現任)
平成20年6月 当社社外監査役(現任)
平成22年6月 SBIホールディングス㈱社外取締役
平成28年6月 当社報酬委員会委員(現任)

玉木さんは職歴スタートがニューヨークからで、28歳からなので大学院修了している可能性もありますね。英語は堪能でしょう。

USCPA取得は32歳。日本帰国後のトーマツ勤務中に取得しているようです。

その後に一般企業勤務し、起業しています。SBIの社外役員もやっていたようで、幅広い人脈がうかがえます。

玉木さんのルートはもともと英語が得意な人が進むルートでしょうか。しかし、起業もなかなかハードルが高いですね。再現性は高くないですね。

いちご 執行役 坂松 孝紀

生年月日 略歴
1976年6月3日生 2006年4月 当社入社 ファンディングマネジメント部
2007年10月 当社企画管理本部経理部
2009年6月 アセット証券株式会社(現いちご地所株式会社)総務部
2012年11月 米国公認会計士試験合格
2013年3月 当社財務本部経理部長
2014年3月 当社財務本部企画部担当部長
2015年1月 株式会社銀座メディカル 社外取締役
2016年3月 当社財務本部財務部担当部長
2017年3月 当社財務本部副本部長(現任)
2017年10月 いちご土地心築株式会社 取締役(現任)
2018年3月 当社執行役企画経理部管掌(現任)兼 企画経理部長(現任)

この坂松さんは取締役ではなく執行役員ですが、有価証券報告書に記載があったのでピックアップしました。

2006年いちご入社なので、30歳入社。大学院修了かもしれませんし、前職がある可能性もありますね。

経理に入り、USCPAを36歳で取得、その後、財務本部経理部長から、子会社取締役を経て執行役まで昇進しています。

海外経験はなく、経理部員としての箔付けの意味が大きいでしょう。英語要素よりも、会計要素が重視されているように思います。

またいちごの代表は米国出身なので、USCPAを評価してくれる土壌がある可能性もありますね。

この経理員が箔付けでUSCPA取得し、昇格していくルートもサラリーマンUSCPAの目指す道の一つですね。

なお、社名のいちごは苺ではなく、一期一会のいちごに由来します。

菱洋エレクトロ 取締役上席執行役員 脇 清

生年月日 略歴
昭和34年10月22日生 昭和58年4月 株式会社三菱銀行(現株式会社三菱UFJ銀行)入行
平成23年11月 当社出向
経営戦略室長
平成24年2月 執行役員経営戦略室長、海外営業本部副本部長
平成24年4月 当社入社
平成24年11月 執行役員海外営業本部長
平成26年2月 上席執行役員海外営業本部長
平成26年10月 米国公認会計士登録
平成27年2月 上席執行役員管理本部長、海外営業本部長、CSR部統括
平成27年11月 上席執行役員管理本部長、CSR部統括
平成28年5月 取締役上席執行役員経営戦略室管掌、管理本部長、CSR部管掌(現任)

脇さんは三菱銀行出向から、転籍、執行役員海外営業本部長から取締役まで昇格しています。

三菱時代の職歴はわかりませんが、転籍後すぐに海外担当なので、海外経験がある可能性もありますね。

USCPA取得は55歳で、海外担当になったことに合わせて勉強を開始したものと思われます。取得後、管理本部長になっていることから、USCPAの効果が出た可能性もありますね。

しかし、海外担当営業部長をやりながら55歳でUSCPAを取得はすばらしいですね。勉強の時間確保も大変ですし、すでにある程度のポジションにいながらもストイックに勉強を続けるのは簡単なことではないです。

脇さんの場合は、ある程度出世してからのUSCPA取得です。通常あまりないケースだとは思いますが、営業担当と管理担当を兼ねることができたのはUSCPA取得の効果もあるでしょうし、出世してもあがりと思わず勉強し続けると思わぬ道が開けることもあるということを示すものではないでしょうか。

オプトラン 専務取締役 高橋 俊典

生年月日 略歴
1948年6月29日生 1972年4月 株式会社日本債券信用銀行(現株式会社あおぞら銀行)入行
1998年4月 日債銀投資顧問株式会社 取締役就任
1999年4月 同社常務取締役就任
1999年6月 メリルリンチ日本証券株式会社入社
2001年1月 当社上級執行役員総務経理担当就任
2001年5月 当社上級執行役員管理本部長兼経営企画室長就任
2001年6月 当社取締役就任
2001年10月 光馳科技(上海)有限公司董事就任(現任)
2003年11月 当社常務取締役就任
2005年3月 米国公認会計士登録(ワシントン州)
2006年3月 当社取締役就任
2006年4月 当社取締役上級執行役員管理部長就任
2013年10月 光馳科技股份有限公司(台湾)    董事就任(現任)
2014年8月 Optorun USA, INC.取締役就任(現任)
2017年3月 当社取締役常務執行役員 管理部長就任
2018年3月 当社取締役専務執行役員 管理部長就任(現任)

高橋さん、かなり面白い経歴です。1999年4月に日債銀投資顧問株式会社の常務になり、その直後の1999年6月にメリルリンチ入社。

Wikipediaによると、日本債券信用銀行は

1998年12月に経営破綻し一時国有化され、2000年に投資グループに売却された。

とありますので、このあたりのゴタゴタに巻き込まれた人なのかもしれません。しかし、これを経験すると、常人では味わえない貴重な経験をしているでしょうし、面白い人材ですね。

USCPA取得は57歳。ピックアップした中では最高齢です。常務になってから取得しています。この方もストイックですね。

USCPAは総務経理担当執行役や管理本部長、上海子会社の董事を経ての取得です。

そしてUSCPA取得後に台湾や米国子会社役員に就任し、いまは専務まで上り詰めています。

USCPA取得前から担当している部署は経理・管理部、海外子会社董事とUSCPAの強みが発揮できそうな部署です。USCPA資格を持つことで「わかってるんだぞ。」ということを示すことができるポジションにいたので、武器としてUSCPAを取得したと思われます。その後も、海外子会社役員、管理部長とUSCPAの強みをいかんなく発揮されていますね。

今いるポジションをより強固するためにUSCPAをとる。このパターンも王道でしょう。

ラクオリア創薬 取締役 河田 喜一郎

生年月日 略歴
昭和35年10月26日生 昭和59年4月 ㈱上組 入社
平成元年1月 トゥウシュ・ロス会計事務所 入所
平成2年9月 デロイト&トゥウシュLLP 入所
平成5年8月 米国公認会計士登録(カリフォルニア州)
平成7年9月 同法人 マネジャー(国際税務)
平成7年11月 米国日本通運(株) 財務部 入社
同社 シニア・マネジャー
平成13年9月 監査法人トーマツ CF部門 入所
同法人 マネジャー
平成15年10月 同法人 シニア・マネジャー
平成16年10月 ㈱産業再生機構 入社
同社 マネジャー
平成17年5月 デロイトトーマツFAS(株) FA部門 入社
同社 シニア・ヴァイスプレジデント
平成21年3月 当社 入社執行役員(監査室長)
平成23年9月 当社 執行役員(経営企画担当)
平成24年3月 当社 常務執行役員
平成28年3月 当社 取締役 兼 専務執行役員
  (CFO、財務・経営企画担当、 研究企画調整担当)(現任)
平成29年4月 テムリック㈱ 取締役(現任)

河田さんは、一般企業は監査法人、産業再生機構などを渡り歩いて、現在ラクオリア創薬のCFOをやっています。この時代にしては転職回数が多いですね。ただ、デロイトトーマツ系に一貫して所属し続けているので、知り合いの紹介や転籍や出向等で出たり入ったりしてるのかも?

米国公認会計士取得はデロイト勤務中の33歳の時。

USCPAをとって、監査法人系企業に勤務、49歳(平成21年)の時にラクオリア創薬に転職しています。

ラクオリア創薬は平成20年創業、平成23年上場なので、IPO準備関係で入社したのでしょう。監査法人で培った技術で上場準備企業に入社する。こういう道もUSCPAのルートのひとつでしょう。

フィル・カンパニー 常勤監査役 金子 麻理

生年月日 略歴
昭和37年8月23日 昭和61年4月 日本IBM株式会社入社
平成14年3月 一橋大学大学院商学部経営学科修士課程卒業
平成18年8月 米国公認会計士登録
平成18年9月 Fujita Rashi(USA)入社
同社会計担当責任者
平成20年6月 Beni LLC設立 代表就任
平成26年1月 当社入社
平成26年2月 当社常勤監査役就任(現任)
平成26年3月 株式会社フィル・コンストラクション 監査役就任(現任)

金子さんは、今回ピックアップした中では唯一の女性です。

日本IBM入社後に44歳でUSCPAを取得しています。一橋大学大学院修士課程卒業が40歳、そしてUSCPA取得後、44歳でアメリカの会社(日系と思われる)に入社し、46歳で会社設立。52歳でフィルカンパニーに常勤監査役として入社。面白い職歴です。

もしかしたら、子育てで一時仕事をしていなかった時期等あるかもしれませんが、間違いなくストイックな方でしょう。

やはり、海外勤務ができることもUSCPAの強みでしょう。金子さんはUSCPA取得直後に米国の会社に入社していることを考えると、USCPAが就職の強い味方になった可能性も高いでしょう。

 

海外勤務を目指す人のひとつのルートだと思います。

まとめ

やはり、役員になる人たちの経歴はおもしろいものが多いです。

そしてUSCPAを取ったことでうまく社内アピールできた人、海外就職できた人、肩書をうまく利用している人それぞれUSCPAの強みを発揮できているように思います。

USCPAなのに全然関係ないところで活躍している人はこの中にはいません。やはり監査法人、経理・管理部門、海外で活躍するのが王道のようです。

そして、みなさんけっこう社会人経験を積んでからUSCPAを取得しているものひとつの特徴でしょう。

最後に、参考までに年齢関係のまとめを付けておきます。

USCPAを取得(登録)した平均年齢

全員(9名) 39.6歳
監査法人勤務者(4名) 31.3歳
監査法人勤務歴なし(5名) 46.4歳
最高齢 57歳
最年少 28歳

監査法人勤務歴なしだと、平均年齢46歳とやはり高いです。目指す職のためにとるというよりは、今の職で伸びていくためにとる傾向が強いのでしょうか。

これを見る限り、USCPA取得に遅すぎるはないですね。この資格の汎用性の高さがうかがえます。

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